東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)286号 判決
1 請求の原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。
2 そこで、原告が主張する審決取消事由の存否について判断する。
(一)(1) 成立に争いのない乙第一号証ないし第五号証によれば、コインを投入して物品を販売する自動販売機において、投入コインの金額が販売価格と少なくとも等しいときに商品を販売する販売付勢装置部を設けることは、その一般的な構成であること、右販売付勢装置部を具体化するには、投入コインの金額の演算回路と販売価格の設定回路と、それらを比較するための比較回路が必要であり(例えば、自動販売機第一例の装置では、一〇進カウンタU1、品物送出用パワー要素U2、OR要素U3、スイツチA等、特許出願公告昭四五―三四〇八九号特許公報記載の装置では、二進計数回路F1、F2、F3、F4、マルチバイブレータMF、ベンドスイツチV、特開昭四七―三八〇〇〇号公開特許公報記載の装置では、可逆計数回路(2)、マトリツクス回路(3)、物品選択回路(4)、(4)´、(4)´´、選択信号回路(5)、(5)´、(5)´´、物品送出回路(6)、(6)´、(6)´´、比較回路の出力によつて販売付勢装置部が作動することが認められる。
ところで、成立に争いのない甲第四号証によれば、引用例の発明は、「予定の設定金額に対する投入された硬貨及びそれに対する釣銭を算出する投入硬貨及び釣銭計算装置に関する」(第一頁左欄下から第一三行ないし第一一行)ものであつて、自動販売機にも用いられるものであるが、その実施例には、別紙図面(二)・第8図に示すように、販売付勢装置部を具体化するために必要な投入コインの金額の演算回路としてカウンタ20が、販売価格の設定回路としてカウンタ21が、それらを比較するための回路として比較回路4がそれぞれ記載されていることが認められる。そして、回路設計に当つて複数の機能が一つの回路で達成できるとすれば、通常は、その各機能に応ずるそれぞれ専用の回路を設けるのでなく、一つの回路でこれらを処理するのが技術常識であり、このことは、前掲乙第二号証、第三号証によれば、同号証記載の自動販売機においては釣銭計算装置より販売付勢のための信号を得ており、その信号を得る専用回路を設けていないことからも裏付けられる。
原告は、被告が自動販売機の一般的な構成であると主張する、例えば自動販売機第一例における販売付勢装置部は比較装置に接続されていないから、本願発明(4)における販売付勢装置部の構成と異なつている旨主張する。
しかしながら、前掲乙第一号証によれば、自動販売機第一例の装置では、販売価格が一〇円ないし四〇円に限定され、更に投入される貨幣が五〇円硬貨又は一〇〇円硬貨である場合には、すでに条件上投入金額の方が販売価格より多いことは明らかであるから、特に比較回路を設けることなく、投入金額の確認のみで販売付勢を行つている(近接スイツチT2からの信号がOR要素U3を通してパワー要素U2に加わることにより、品物が送出される。)のであつて、比較が行われない訳ではなく、前記装置は、前記の限定された場合には、すでに比較の機能を折り込んだものとして設計されており、本願発明(4)との間に実質的な相違は認められないから、原告の右主張は採用できない。
そうであれば、引用例の別紙図面(二)・第8図記載の釣銭計算装置(以下第8図記載の装置を「引用例の装置」という。)によつて自動販売機を設計する場合、本願発明(4)のように、販売付勢のための信号をこの釣銭計算装置の比較回路より得るようにするのは当然のことであるから、審決において認定する相違点<1>は、引用例の装置によつて自動販売機を設計する場合、当業者の当然に採用するところというべきであつて、相違点<1>についての審決の判断に誤りがあるということはできない。
(2) 前掲乙第一号証ないし第五号証によれば、コインを投入して物品を販売する自動販売機において、次の販売動作のためのリセツトをする装置部を設けることは、その一般的な構成であると認められるところ、前掲甲第四号証によれば、引用例の装置においては、「投入硬貨変換器1を通して、第一・一方向性カウンタによつて計数された投入金額は、第二・一方向性カウンタ20(21の誤りと認められる。)にセツトされた設定金額3と、比較回路4によつて比較される。投入金額が過剰な場合には、ゲート回路6が開き、パルス発振器5より送出されるパルスは、第二・一方向性カウンタ21で計数され、両カウンタ20、21の値が等しくなり、ゲート回路6が閉じるまで計数される。」(第四頁右欄第四行ないし第一一行)と記載されているから、カウンタ21にパルスを印加し、カウンタ20とカウンタ21の内容が同一になるのに必要な前記パルスの数を計算しており、両カウンタが等しくなつたとき、計算装置の一つの操作が終了するものと認められる。また、前掲乙第五号証及び弁論の全趣旨によれば、引用例と同種の計算装置を用いる自動販売機第二例の装置においては、第一のカウンタCT1と第二のカウンタCT2とを比較回路CMで比較し、両者が等しいことを示す信号Rでオールリセツトさせており、このようなリセツト装置は、本願発明(4)の特許出願当時、周知であることが認められる。
そうであれば、本願発明(4)におけるように、一つの操作の終了によりカウンタの回路を元に戻すように機能するリセツトのための信号を、二つのカウンタが等しくなつたときの信号から得るようにすることは、引用例の装置によつて自動販売機を設計する場合、当業者の当然に採用するところというべきであつて、相違点<2>についての審決の判断に誤りはないということができる。
(二)(1) 成立に争いのない甲第二号証、第三号証によれば、本願発明(4)における比較装置の構成は、第一及び第二のカウンタに入られたそれぞれの額を比較する装置であつて、入れられた額が等しいか異なるか比較し、異なる場合には差額を指示する装置を含むものであることが認められる。
しかしながら、投入金額と設定金額とが等しい場合に、(a)等しいことを指示する信号については、前記(一)(2)のとおり、引用例の装置によつて自動販売機を設計する場合、当業者の当然に採用するところであり、(b)差額を指示する信号については、前掲甲第四号証によれば、引用例の装置にあつても、比較回路ないし比較器の出力に基づいて釣銭を支払つているのであるから、この出力は、当然に差額を指示しているものと認められる。更に、投入金額と設定金額とが少なくとも等しいときに、(c)少なくとも等しいことを示す信号は、前記(一)(1)のとおり、販売付勢装置部を作動させるための信号として、自動販売機において用いられる一般的な構成に係るものである。
したがつて、審決は、本願発明(4)と引用例のものとを対比するに当つて、比較装置について、原告主張の相違点を看過したものとすることはできない。
(2) 前掲甲第二号証、第三号証によれば、本願発明(4)における支払い装置は、比較装置に接続され、比較装置から第一及び第二のカウンタの額が等しいことを指示する信号及び異なる場合にその差額を指示する信号を受け、これにより差額に当るコインを支払い、また、等しいことを指示する信号により支払い動作を終了し、第一及び第二のカウンタをリセツトするものと認められ、これに対し、前掲甲第四号証によれば、引用例の装置は、投入金額が過剰な場合には、パルス発振器5より送出されるパルスは、第二のカウンタ21と釣銭硬貨変換器7の双方に印加されるものであつて、別紙図面(二)・第8図の記載から明らかなように、釣銭硬貨変換器7から出る信号は、第二のカウンタ21に入力されるように接続されていないものと認められる。したがつて、支払い装置に関しては、比較回路からの信号により支払い制御回路が駆動される点は、本願発明(4)も引用例の装置と同一であるが、第二のカウンタに戻す信号を、本願発明(4)では支払い制御回路より得ているのに対し、引用例の装置では比較回路から直接得ている点において、両者には、一応の相違がある。
しかしながら、第二のカウンタに戻す信号を支払い制御回路から得ているか、比較回路から直接得ているかいずれであつても、釣銭に対応した信号である点においては相違はなく、しかも、前掲乙第一号証、第四号証、第五号証によれば、自動販売機第一例ないし自動販売機第三例の装置は、釣銭に対応した信号を支払い制御回路から得ていることが認められ、この事実と弁論の全趣旨によれば、本願発明(4)の支払い装置に関する右のような技術は、自動販売機では周知の技術であるということができるから、そのいずれを採用するかは、単なる設計上の問題にすぎない。
そして、第二のカウンタに戻す信号を支払い制御回路から得る技術を採用した場合には、実際に支払われた釣銭に対応した信号が第二のカウンタに戻されることになるから、最後の信号で二つのカウンタは等しくなり、二つのカウンタが等しくなつたときに釣銭支払い動作は終了する。このような動作は、本願発明(4)における支払い装置の動作と全く同一であるから、本願発明(4)の支払い装置のように、比較装置における前記等しいときに発生する出力信号に応答して支払い動作を終了させる構成も、引用例の装置を自動販売機に具体化するに当つての単なる設計上の問題の域を出ない。
したがつて、審決は、本願発明と引用例のものとを対比するに当つて、支払い装置について、原告主張の相違点を看過したものとすることはできない。
(三) 以上のとおり、審決を違法とする原告の主張はいずれも理由がなく、審決には、これを取消すべき違法の点はない。
3 よつて、審決の取消を求める原告の本訴請求は失当として棄却することとする。
〔編註その一〕本願発明の要旨は左のとおりである。
(1) 自動販売機及び他の金銭により制御される機械の制御回路において、機械に入れられたクレジツト額を累計する第一のカウンタと、第二のカウンタ及び設定された販売価格と等しい額を第二のカウンタに入れる装置と、第一のカウンタに累計された額に応答するように接続された第一の入力装置及び第二のカウンタに累計された額に応答するように接続された第二の入力装置とを有する比較器回路と、第一及び第二のカウンタに累計された額の間の比較に応答するデコーダ回路装置であつて第一及び第二のカウンタにそれぞれ累計された額の間の等しいこと又は予め選択した差額をそれぞれ表わす信号を発生する複数個の出力を有する前記デコーダ回路装置を含む比較器出力装置と、比較器回路に接続され第一のカウンタが第二のカウンタに累計された額に少なくとも等しい累計額を有していることを比較器回路が示しているときは販売制御付勢入力信号を受取る付勢入力を有する販売制御回路と、第二のカウンタに累計された額に関してのこの額と第一のカウンタに累計された額との間の予め定められた過剰の差を表わす信号を生成する出力を含むデコーダ回路装置の各出力に接続された複数個の入力を有する支払い制御回路であつて、第一及び第二のカウンタに累計されたそれぞれの額が等しいことを比較器回路が示しているときにデコーダ回路装置の出力を受取るように接続されたリセツト入力を有し、前記過剰累計の返還を行わせるために出力信号を発生する装置を含む前記支払い制御装置と、を含有する自動販売機及び他の金銭により制御される機械の制御回路。
(2) 特許請求の範囲第一項に記載の自動販売機及び金銭により制御される機械の制御回路であつて、支払い制御回路と販売制御回路とに接続された未決済制御回路を含み、前記未決済制御回路は操作員が作動可能な未決済スイツチを含み、このスイツチの作動は未決済制御回路と支払い制御回路とを付勢して第一のカウンタに入れられた累計の全額を返還させ、前記付勢された未決済制御回路は販売制御回路の動作を同時に禁止する出力装置を含む自動販売機及び他の金銭により制御される機械の制御回路。
(3) 販売制御回路であつて、機械に入れられたクレジツト額を累計する第一のカウンタと、販売価格と返還額とを入れるための第二のカウンタと、第一及び第二の入力と出力装置を有するパルス発生器を含むカウンタ入力回路であつて、前記第一の出力装置は第一のカウンタに接続され、前記第二の出力装置は第二のカウンタに接続されている前記カウンタ入力回路と、パルス発生器を付勢して、機械に入れられた各クレジツト額の値を表わす出力を前記第一の出力装置に発生するための、パルス発生器の第一の入力装置に接続されたクレジツト入力信号源と、第二のカウンタに接続された価格エンコーダ装置であつて、入力及び出力装置、及び該出力装置を第二のカウンタに接続する装置を有する前記価格エンコーダ装置と、第一のカウンタに入れられた額を第二のカウンタに入れられた額と比較する比較装置であつて、これらの額が等しいか又は異なるか、及び異なる場合には差額を指示する装置を含む前記比較装置と、第一のカウンタに累計された額が第二のカウンタ中の販売価格と少なくとも等しいときには自動販売機の販売動作を開始するための装置を含む、比較装置に接続された販売付勢回路装置と、を含む販売制御回路。
(4) 製品の販売と販売価格を越えて投入された額の返還とを制御する装置を含む販売制御回路であつて、コインを投入したときに自動販売機に入るクレジツト額を累計する第一のカウンタと、販売価格を入れるための装置を含む第二のカウンタと顧客に返還された各コインの値を表わす額を第二のカウンタに入れる他の装置と、自動販売機に投入された各コインの値を表わす信号を発生する装置を含むカウンタ入力装置と、第一及び第二のカウンタに入れられたそれぞれの額を比較する装置であつて、入れられた額が等しいか異なるか、及び異なる場合には差額を指示する装置を含む前記比較装置及び該比較装置に接続され、第一のカウンタに累計された額が第二のカウンタに入れられた販売価格と少なくとも等しいときには自動販売機の販売動作を開始する装置を含む販売付勢回路装置と、第二のカウンタに入れられた販売価格を越えて第一のカウンタに入れられた額を表わす返還のコインを支払う装置を含む、比較装置に接続された支払い装置であつて、第二のカウンタに接続され該カウンタの中に支払われた各コインの値を表わす額を入れ、第二のカウンタに累計される額を増加する装置を含み、前記比較装置は第二のカウンタに累計された額が第一のカウンタに累計された額と等しいときに出力を発生するようにされた前記支払い装置と、比較装置の前記等しいときに発生する出力信号に応答して支払い動作を終了し、第一及び第二のカウンタをリセツトする装置と、を含む製品の販売と販売価格を越えて投入された額の返還とを制御する装置を含む販売制御回路。
(別紙図面(一)参照)
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙
(一)
<省略>
(二)
<省略>